土を耕す目的を考えれば、その必要性が見えてくる

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今回は「耕す」ということを、家庭菜園目線でピックアップしていきたいと思います。
突然ですが、なぜ、農業は土を耕すのでしょうか。その目的はなんでしょう?

正解は、野菜の育成に適した土にするためです。

耕す目的:野菜の成長にとって良い土にする

これ逆にいえば、土が良い状態なら耕さなくて良いということ、ですよね?

結論を先にいうと、やっぱり個人でやる家庭菜園なら耕す行程は省けた方が良いな、なのですが、そのへんをゆっくり整理してみましょう。

良い土の条件

じゃあその良い土とはどういう状態のモノかというと

水はけと保水

水が多すぎても少なすぎてもダメ。
過剰なら余分がはけていって、足りなければ在る分が逃げないようにする。
具体的には以下のバランスになり続けると良いといわれています。

固相(土)…4割
気相(空気)…3割
液相(水)…3割

「水はけ良く」と「水保ち良く」って真逆じゃん。具体的にどう耕せばこのバランスにできるの?

それを説明できる人は少ないんじゃないかな

団粒構造

固相・気相・液相のバランスが保たれた土の状態の一つとして「団粒(だんりゅう)構造」という言葉がよく使われます。

耕すことイコール良い土を作ること、であれば、耕すことイコール団粒構造をつくること、となるのですが、結局、どう耕せば団粒構造と呼ばれる状態にできるのか、というのを改めて調べてみると、どうやら、耕すだけでは団粒構造にはならないようなんですね。

空気を中に入れ込んだり肥料を混ぜ込んだりして微生物の活性化を促す効果が耕すにはあれど、それでは最終的な仕上げは土中生物頼りになるようです。

それならまだしも、土中生物を不必要とする慣行農法では、単に腐植等の土壌改良剤を混ぜ込む、つまり、ほとんど、どこかヨソで微生物を使って団粒構造化したモノを持ってきて追加する、ということのようです。

もっとダイレクトに団粒促進剤なんてのもあるらしいよ

なんでも薬まかせだね

いずれにせよ、単純に耕すだけでは良い土にならず、何かを追加する、もしくは、それ以外の別の何かも利用して、初めて野菜の生育にとって良い土になる、ということですね。

まとめると、シンプルに、野菜の育成に適した状態になっていないなら、なんらかの対処が必要となり、その一つが耕すということなんですね。

耕起のメリット・デメリット

耕すメリット

(やり方によっては)耕すとリセットされる

土の中をかき混ぜるということは、土の中に構築された生態系の世界を破壊するということです。
そのほうが、作付けの度に決められた養分や薬を入れて一定の状態にしたい「慣行農業」にとっては都合が良いです。

除草される

かき混ぜられると、せっかく発芽しようと準備していた雑草の種も巻き込まれて発芽できなくなります。
たいていの作物は雑草と同時にヨーイドンで生えると雑草に負けがちになります。
なので耕した直後に種を蒔けば、雑草は体制を立て直すためワンテンポ遅れるので、育成しやすくなるのです。

(やり方によっては)土中生物の活動が活発になる

かき混ぜると土中に空気が入り込み、中の生物の活動が活発になります。
微生物の働きがかかせない有機農法なんかでは重要な要素です。

耕すデメリット

労力・エネルギーの消費

人手(クワ)を使うなら広ければ広いほど殺人的な手間になる。

大人しくスーパーで買った方が楽

機械を使えば家庭菜園ならその時点で採算割れとなる。

素直にスーパーで買った方が安い

さらに前述したように耕すだけでは良い土にはならず、セットでなんらかの資材が必要になりさらに絶望的な赤字へ。

鍬で耕す
人力では莫大な労力が必要
耕運機
機械を使えば莫大な費用が必要

長い目でみた土の疲弊

土中生物の活性化は、言い換えれば土の中の未来のエネルギーを今使ってしまうこと。
その時は植物が良く育つけど、同時またはその後に施肥をしないとガクンと地力が弱まります。

一度耕し、そして施肥をしたなら、もうずっと人間の手が入り続けないとドンドン痩せていくんです。

施肥をしても本来の生態系の働きと同じくらいの高いレベルでできなければやっぱりだんだん痩せていきます

農法ごとにみると

以上をまとめて改めて農法別に目的と効果を整理してみると、

化学肥料の慣行農法

  • 農作物の成長促進…土を柔らかくして根をはりやすくする
  • 除草効果がある
  • 一度世界を壊してゼロから育成しやすい環境を作れる

有機肥料の有機農法

慣行農法の効果に加えて

  • 微生物の成長促進…空気を入れる

リセットすることと、微生物の活性化は一見矛盾するように見えます。これは耕す深さや、耕し方が違うとうけとめています。

耕す深さが浅ければ浅いほど、土の中の生態系の被害が軽微で、修復が早くなりますし、スコップを差し込んでその場の土を少しだけ起こして、空気だけ入れるやり方もあります。
有機農法自体とても幅広い農法なので、自分のやり方にあった耕うんを各々で微調整して選択していると考えています。

なんか聞いた感じ、なんだかんだで耕すって必須じゃん?

いやいや、世の中には不耕起(耕さない)農法もあるんだ

そうです。こんな効果が耕すにはあるのですが、前述したとおりのデメリットもあります。そんなわけで、耕さないという方法を実践している人もいるんです。

では不耕起栽培は、固い土壌の痩せた土で育ててるのでしょうか?

自然界では生態系が土を作る

そんなわけないですね。
実際の自然の野原や森は、誰かが耕しているわけではありません。

なのに、植物は逞しく育っています。

つまり、耕していないのに、固相液相気相のバランスが完璧で水はけも保水もできている土壌になっているということ。

これは、植物自身も含めた、生態系が土壌を作っているんです。

自然界の生態系

自然では…

  • 水はけが良くなる
  • 土が固くならない

【なぜ?】

植物が根を張り巡らせるために掘り進み、やがて枯れて空洞を作っていますし、同じように動物(モグラ・ミミズ・昆虫など)の活動も空洞を作ります。

微生物やあらゆる生命体の活動(排出物や死体)も土質を変えていきます。
これが絶妙に、耕す以上の持続的な土質を生んでいるんですね。

自然では…

  • 水保ちが良くなる

【なぜ?】

たくさんの植物の根が土の中に広がって保水します。
植物がいない丸出しの土では、ちょっとの雨ですぐにぐちゃぐちゃにぬかるんでしまいます。

わかりやすいのが山で、皆伐といって全ての木を伐採して丸裸になった山は、とても土砂崩れが起きやすくなります。

あれ?耕すメリットに除草があったよね。除草された方が良いんじゃ…?

それは生態系が邪魔な慣行農法や有機農法の話。生態系を利用する場合は雑草はむしろ必要なんだ

全て自然がやってくれる。しかも、決してやりすぎない。

以上のように、不耕起栽培は、この自然の仕組みを最大限に利用して成立している方法なんです。

生態系が作った土(地面)は、細長い棒状のモノを差し込むとズブズブと沈んでいきますが、そこに人間が立っても沈みません。

多分これが最も水はけ良く、水保ちが良い状態なのだと思います。

が、これを耕すという人工作業で作れるのかというと、すごく疑問。

自然界では植物が混生密植して根を地中に張り巡らし保水をすると書きました。
農業の畑は、当然ながら植物を混生密植させていません。
混生密植させていない土壌の、水はけ・水保ちを良くするための構造が団粒構造なのであり、厳密にいうと自然界の土壌は団粒構造ではないのかもしれない、という声も挙がっています。

生態系の絶妙なバランス。正直言って自然界の土壌構造が団粒構造ですらないのなら、人間の手でこのレベルに土を作るのはほぼ不可能だと思います。

なぜなら、動植物はそこ(土中)で生きているけれど、人は生きていないから。

自分の痒いところはピンポイントで掻けるけど、他人の痒いところをピンポイントで掻くのは難しいのと同じように、動植物はまさにそこで生きているから、絶妙な微調整をリアルタイムでできるんです。

人間には、せいぜい、だんだん疲弊していくのを黙って受け入れつつかき混ぜるくらいが能力的に限界ではないでしょうか。

畑の土
畑の土はむき出し
森林の状態
森林の地表は植物でおおわれる

とはいえ、不耕起栽培には、強烈なデメリットがあります。

一度破壊した土壌環境は、すぐには変わらない、ということです。
植物が生い茂、微生物が活動を始め、それに伴って昆虫や動物が集まり、だんだんと大きくなるスピードは自然まかせです。
その生態系が出来上がったらその仕組みの中を利用して作物を作るやり方なので、場所によって程度の差はあれ、育成環境が最適になるには、数年がかかるでしょう。
その間はマトモな作物が育成されないくらいに考えておいたほうが良いでしょう。

じゃないとガッカリするよ

しかし一度生態系の仕組みが確立できてしまえばそれは永遠に続きます。

様々な草が適度にはびこっている状態では、確かに野菜の成長は遅れますし、大きさも売り物よりも小さいです。
が、そのぶん耕す行程が無いばかりか、水やりの必要もよほどのことがない限り必要無くなります。

形大きさ色を揃えて、育成期間を短く均一に整え出荷できる、流通にのせるための食べ物を作る農業ではこれら生態系をほぼ全て排除するので、土壌が痩せていくとわかっていても人間の耕起が必須になります。やめられません。

しかし、自分達が食べる分を作るだけ、であれば、この絶妙な土作りは生態系にやってもらったほうが圧倒的に楽ですし、もっといえば、そうでなければ、自給として成立しません。

数年間の土づくりができるかどうかは、

長期的な観点で物事を見れるかどうかだね。

海外は不耕起が主流になりつつある

日本は雨がよく降り水に恵まれていますが、そうではない国のほうが多いです。

そんな国では、耕すことによっての土壌衰退がとても深刻です。

なので、昨今では不耕起栽培が増えているそうです。

めっちゃ良いじゃん!
海外は進んでるね!

それがね…

不耕起栽培をするためには生態系を利用しなければならないと書きました。

が、人間は工夫をするもの。

海外で行われている不耕起栽培では、耕さないことによって防げない雑草に関しては除草剤で抑え込み、耕さなくても育つようにほどこした『遺伝子組み換え作物』を使っているそうです。

遺伝子組み換えイメージ

なるほど…そうきたか…

終わりに

全ての農法にいえることですが、一つ一つの作業は、これは良い悪いと、単純に分けられるものではありません。

なにが目的なのかを明確にして、その行為は、どんな効果があるのかをしっかり認識して取捨選択をするのが「農・栽培」にはとても重要です。

じゃないと、迷走しちゃうよ

土中に生態系がいないのに、素敵だからと無肥料でやったって育つわけないですし、素敵だからと不耕起でやっても雑草も虫も鳥も動物も排除し続ければ永遠にマトモに育つ環境にはならないでしょう。

外国の例のように、不耕起で作った野菜だから素晴らしいわけでもありません。

農法に絶対的な正解はない。その場所の環境や土、やる人の目的によって最適は変わる

最後まで読んでくれてありがとう!
またね!

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